川端康成『雪国』

鈴木のやっと読んだったシリーズ。講談社文庫。記憶違いがちなので冒頭をおさらい。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
(P7)

大きい視点と小さな視点が綾なす臨場感ある美しい描写。幼少の頃よりチャーザー村の話などを耳にするにつけ、わたしが生まれ育った小樽も雪は多いけれど、きっと北陸の雪深さとは質が異なるのだろうなとずーっとうすうす想像していたところを、ようやく氷解させていただいたような感覚。現代の、それなりに都市部、なんかになっちゃうともう全然違うんだろうけどさ。

一面の雪の凍りつく音が地の底深く鳴っているような、厳しい夜景であった。月はなかった。嘘のように多い星は、見上げていると、虚しい速さで落ちつつあると思われるほど、あざやかに浮き出ていた。星の群が目へ近づいて来るにつれて、空はいよいよ遠く夜の色を深めた。国境の山々はもう重なりも見分けられず、そのかわりそれだけの厚さがありそうないぶした黒で、星空の裾に重みを垂れていた。すべて冴え静まった調和であった。
(P38)

しかしまあ女心のわからなさよな。

駒子が自分のなかにはまりこんで来るのが、島村は不可解だった。駒子のすべてが島村に通じて来るのに、島村のなにも駒子には通じていそうにない。駒子が虚しい壁に突きあたる木霊に似た音を、島村は自分の胸の底に雪が降りつむように聞いた。
(P130)

雪国 (講談社文庫 か 2-1)

雪国 (講談社文庫 か 2-1)