夏目漱石『門』
角川文庫。今年の夏に鎌倉を旅し、円覚寺にも行ったのだけれど、そこが漱石『門』の舞台になってるよって話を直前に知り、旅行から帰ってきて家の本棚を見たら読まないままになっていた『門』があったものだから、これはと思って読んだのだけれど、まあ、まあ、まあ、まあ、なんとまあ門が登場しないこと!さんざんじらしやがって!
でも、面白かった。派手さはないのだけれど驚くほど読みやすい。夏目漱石すげえ。夏目漱石面白いよ!(超今更)
何がいいかって、とにかく主人公夫婦の淡々としたたたずまい、やりとり、気持ち。その理由は徐々に明らかになってゆくのだけれど、なんだろう、ひっかかりを残しながら、どこまでもしれっと進んでいくストーリーは、心地よく読めちゃうのに、じわじわとぞっとくる感じ。
ぐっときた箇所、ぞっときた箇所、一か所ずつだけ引用。
お米は気にするように枕の位置を動かした。そうしてそのたびに、下にしている方の肩の骨を、布団の上ですべらした。しまいには腹ばいになったまま、両肱を突いて、しばらく夫の方をながめていた。それから起き上がって、夜具の裾にかけてあった不断着を、寝巻の上へ羽織ったなり、床の間のランプを取り上げた。
(P84)
彼らの生活は広さを失うと同時に、深さを増してきた。彼らは六年のあいだ世間に散漫な交渉を求めなかった代わりに、同じ六年の歳月をあげて、互いの胸を掘り出した。彼らの命は、いつのまにか互いの底にまでくい入った。
(P150)
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1951/02/01
- メディア: 文庫
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