芥川龍之介『羅生門・鼻・芋粥』

角川文庫。友人からもらい6年寝かせてから読了。
高校時代、現代国語の定期試験で「羅生門」が試験範囲だった際、「この小説の最後の一文を書け」という問題が出た。ふつう、現代国語の試験といえば、その本文は抜粋だとしても問題用紙に書かれており、それについてやれ解釈だなんだとやるのがほとんどだと思うのだけれど、こうもろに「暗記です」という問題は滅多になく、少々驚き戸惑うとともに「そんなんありかい」と訝しくも感じたと記憶している。
だが、今にして思うのは、この「羅生門」の最後の一文。

下人のゆくえは、誰も知らない。

は、すげえかっちょいい。当時もかっちょいいと思ったし、今回あらためてかっちょいいと思った。その一文を丸暗記することを求め、評価した先述の試験問題は、決して「受験国語的」ではなかったけれど、人生を耕す豊かさをもった、センスのいい試験問題だったかもしれないな、と思った。
さて芥川はほぼ初読で、序盤こそ読みづらくてかなわんと思いながらちびちびと読み進めていたけれど、慣れてしまえばユニークだったりしみじみだったりで、楽しく読めた。「、」が多い人ですね。好きだった話は「父」、「芋粥」、「煙草と悪魔」、「大川の水」。畑仕事に精を出しちゃう悪魔かわいい。あと「大川の水」を読みながら、描写の読み方の勘所を若干だが得た気がした。意味を追いリアルタイムに組み立ててゆくのではなく(どだい仮に組み上がってもすぐ忘れてゆく短期記憶にすぎない)、目が文字の上を通り過ぎてからタイムラグを経て浮かぶ光景を味わいつつ目は先へ先へ…というような。ひいてはその書き方の勘所まで達せればいいのだけれど、そこは要研究。

人間は、時として、みたされるかみたされないか、わからない欲望のために、一生をささげてしまう。その愚をわらう者は、ひっきょう、人生に対する路傍の人にすぎない。
(「芋粥」)

羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)

羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)