中勘助『銀の匙』
岩波文庫。風呂場で。
マンガのほうを楽しく読んでいる(単行本派)のと、灘高の国語の授業だっけ?というぐらいの前知識で。
女々しさ満点ボーイのボンボン物語。特に序盤、100ページ近くまで、えらくいらいらしながら、もうやめたろかしらん、と、その退屈さに何度も心が折れそうになったが、なんか突然あれよあれよと展開し、そこからはするすると読めた。慣れなのか名文なのかはわからん。キラキラとした子どもの感覚。「よつばと!」みたいなもんか。違うか。
中盤以降は思春期に少年から大人に変わって顔も脂ぎってきた感じなのに胸の中の繊細な機微を持て余し転がしているような、文学を志すような昔の人たちは共感するだろうねという印象。
岩がちの海岸からところどころに魚の背鰭のようにぎざぎざな岩礁が沖のほうまでつきでて、道を堰かれた波が海坊主の頭みたいに円くもりあがってはさっと砕けてしぶきを飛ばす。路がひとうねりするたんびに岸が小さく狭く彎入し低い波が時をおいては ざぶーん、ざぶーん とうちよせる。それをきくと自然に胸がせまって折角泣きやんだ涙がまたことbれだす。ひとつの波が ざぶーん と砕けて、じーっ と泡がきえて、まあよかった と思うまもなくつぎの波が ざぶーん と砕ける。
(P155)
独特のリズム。ここだけではないが、全角スペースの使い方が面白い。
そこへゆくと私はどういうわけか舌の根に苦味をおぼえて圧しつけられるような気もちになるのであった。
(P160)
舌の苦味への共感。私は根ではなく先で感じるが。
そんなにしてるうちにふと気がついたらいつのまにかおなじ花壇のなかに姉様が立っていた。月も花もなくなってしまった。
(P203)
シンプルで美しいジャンプ。
あと、抜き出しての引用ができないのだけれど、地の文に「恋人」と突然放り込むまでのじわじわとした持っていきかた、そして放り込みかたの鮮やかさが秀逸で、湯船のなか全裸で身もだえする31歳男であった。
直接は関係ないけどあわせて読んだ。
コンプレックス文化論 第五回「親が金持ち」
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