暗黒尾籠

弊社の男子手洗場、個室にて用を足していたところ、小用を足し終えた何某かによって手洗場の電気が消された。
省エネ叫ばれし昨今、このような間違いは時々ある。私もこれまでに何度か経験があったので、あーまたかーと思いながらも落ち着いて「すいませーん」と発声した。これまではこれで再度点灯してもらえることが常だったのだが、今回は違った。再点灯はなかった。
そして闇が訪れた。
勝手知ったる手洗場、何がどこに配置されているか大体の見当はついている。しかし困った、何故なら私は未洗浄状態だったからである。未洗浄の私が洗浄完了をはっきりと確定させるのに必要不可欠な行程、すなわち 「視認」がこのままでは不可能なのである。視認なしにはズボンが上げられぬ。すなわち点灯しにゆけぬ。これはたいへん困った。
業務時間中である。次の何某かが男子手洗場を訪れるのを待つのは得策ではない。窓のない暗黒の個室でじっと座して待つ。それも下半身まるだしで。そんなことは耐えられないし、電気を点けて入ってくる何某だって仰天してしまうだろう。かといって大声で「すいませーん」を繰り返すのも悲しすぎる。耐えられない。
「ええい、ままよ!」私は手探りでウォシュレットのボタンを探り当て、強弱を操った。しかる後手探りで紙を巻き取り、拭いた。視認は出来ない。執拗に拭いた。携帯電話のライトを使う方法も頭をよぎったが、それだけはイヤだった。なんか絵的に。
手探りで水洗レバーをひねった。闇の中流れゆくアレ。不安に駆られながらもズボンを上げた私は、個室を出て、手洗場を出た。そして電灯を点け、即座に個室へと戻った。再び紙。
…大丈夫だった。視認なしでもやればできる。今日、私はアクシデントをバネにひとつ成長したのだ!
なんだこの話。