在宅ワークでそんなに稼げたら苦労しねえ

寝坊した。むかつく。自分になまらむかつく。気が弛んでいる証拠だ。目覚ましが鳴った記憶すらない。たちが悪い。
新しく目覚まし時計を買ってきた。こいつを寝床より離して置いておくことで強制的に起床する算段である。
しかし、はじめのうちはそれでよくても、目覚ましを止める行為自体が徐々に習慣化してゆき、しまいには目覚ましが鳴ると流れるように寝床を飛び出しアラームストップアンドバックトゥ就寝。二度寝。これを無意識にやってしまう。
そうなる前に目覚まし時計の位置を変更ないしはより遠ざけるという方策が考えられるが、いま住んでいるアパートではいずれ限界がきてしまうだろう。ということは、その前に俺はいまよりも広い部屋に暮らさなければならない。そのためには金が要る。稼がなければならない。仕事をがんばらなければならない。そのためには寝坊なんぞすることなくばっちりしゃっきり起床しなければならない。
どんどん広くならなければならない寝室。そのためにどんどん仕事をがんばらなければならない俺。もちろん目覚まし時計を遠ざければ遠ざけるほどアラームの音量は大きくならざるを得ない。するとご近所に迷惑がかかってしまうから、賃貸ではなく一軒家、場合によっては防音処理も必要かもしれん。いっそうがんばって稼がねばなるまい。
もし寝室の広さに俺の稼ぎが追いつかなくなったとき、そのときは一気に総崩れだ。寝坊する、仕事がんばれない、稼ぎ減る、寝室狭くなる、寝坊する、ノンストップ悪循環だ。信用を失い、職を失い、瞬く間に坂を転がり落ちた石は狭く薄暗い部屋まで落ちて止まり、やがてじめじめと苔むして消耗しないように消耗しないようにとただそれだけを考えて眠る。ああ、いやだ。怖い。それだけはいやだ。
がんばってがんばってがんばって、寝室を広くし続けるよりほかないのだ俺は。在宅ワークにゃ憧れるけど、フリーだからって労働時間が減るわけじゃないから同じだ。稼いで稼いでそうして最終的には『おぼっちゃまくん』の御坊家みたいな、広大な寝室を目指すのだ。布団がでかいのだ。
俺が御坊家に住めるかどうかは寝起きにかかっているといっても過言ではないのだ。まずは明朝。いざ明朝。へけけ。