伊藤聡『生きる技術は名作に学べ』

ソフトバンク新書122。空中キャンプを書いてる人こと伊藤聡の著。空中キャンプは大好きで読んできたのでワクワクしながら購入、しばらくだいじに寝かしておいたうえで、11月の頭に読了した。
著者の文章の魅力を一言で表しきるのはとてもできそうにないが、一つはその「論理の明晰さ」と「みもふたもなさ」のバランスであるように感じている。彼の筆にかかれば、さも尊大に見えていた眺めはスッと爽快なあんばいで生活者の目線に降りてくる。対象と礼節ある距離感を保ちながらも、いい意味で卑近な共感が生まれる。読み手である自分の頭がドライブし始める。
私事であるが、今年は私にとって、自分自身の「物語的想像力の欠如」をひしひしと感じさせられる年だった。たとえば映画を観ていて、筋が途中でわけわかんなくなってくるとき。たとえば何か自分でひねりださなければならないのにあまりに無力なとき。たとえば自分の想像を瞬時に越える豊かな広がりを目の当たりにして打ちひしがれるとき。
けれども、あきらめることはない。本書は私をそう勇気づけてくれた。たくさんの物語にふれ、そして考えてみるためのヒントを与えてくれた。
幸い、たくさんの物語にふれるためのそのコストはとてつもなく下がっている。部数の多くないような新作ならともかく、名作と呼ばれる旧作たちは文庫で入手できるし、ブックオフならもっと安いし、ものによっては青空文庫もある。映画のDVDだって100円で借りられる。問題となるのはただ、時間の確保である。それも、ある程度の質を維持した時間を。
本書にもあるように、現代人であるところの私は『魔の山』をかつての人々のように読む時間は持てないだろうし、もはや18歳でもない。けれど、21世紀を生きる28歳なりに、その身の感覚とすりあわせながら、ときに乖離を楽しみながら、テキストと付き合っていくことはできるはずである。
来年は小説をたくさん読むぞー。映画もたくさん観るぞー。そして、まずはもっと打ちひしがれてやる。

生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書)

生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書)