太田和彦『超・居酒屋入門』

新潮文庫
さいきん、BS-TBS「おんな酒場放浪記」が好きだ。特に倉本康子さんのファンです。土曜の夜にこの番組を見ることができた日は、家飲みもまたうまいわけで。ちなみに本家、吉田類さんのほうの番組は見たことがないです。平日のその時間には見られないからです。そもそも倉本康子さんみたいな女性が酔っ払うから楽しいわけです。うまい食い物もたっぷりおすそわけされるわけです。おっさんと飲みたいと誰が思うか!間に合ってます!
そんなプチ居酒屋熱の勢いで本書。こちらのほぼ日の記事に影響されて。別に吉田類さんに恨みがあるわけではまったくありません。
うまい酒とうまい肴について、そしてなにより「居酒屋」について、愛情たっぷりな描写が続く。個別具体的な知識もいろいろと得られて楽しい。全体を通じ、マインド的な主張も少なくなく、そこまで男、男おっしゃらんでもよろしかろうとそこだけは少々辟易するが、著者は自分の父親と同世代ということで納得。
本書の主眼がそうだからでもあるが、「独りで行きたい」という気持ちが強くわきおこってくる。

 一人酒の良いところは、黙っていられるからだ。注文以外ひと言も発しないでいい。たとえ家の中でも、ずーっと黙りっ放しはなかなかできないものだ。これは人それぞれで、一人で食事したり酒飲んだりは考えられず、十分間黙っていられない、という人はいるだろうから一概には言えないが、嫌でも口を開かねばならぬのが社会生活や人間関係であれば、たまにいくらでも黙っていられるというのはなかなか快感である。
 居酒屋ではそれができる。しかも酒もあり、好きな肴まである。私が居酒屋の一人酒を好きなのは黙っていられるからである。
「私と話したくないから居酒屋行くの」と言われると、違うとは言い切れないが、仲が悪いわけではない。
 私は、男は、いやもちろん女もそうだけれど時々一人になる時を持つ事は大切と思う。会社も友人も家族も、すべてのしがらみから離れ、一人でぼんやりする。何か考えても良いが、考えなくてもよい。一人になったら昼寝に限るという人もいるだろうが、昼寝ばかりが人生でもあるまい。
(P13-14)

なんかもう、ここにいろいろ集約されてるな。今後の私の人生に強く影響を与えるだろう一節である。

 入口脇の机にひじをのせ横座りで通りを眺めながらビールを飲んだ。そろそろ夕餉の買物に出てきた母ちゃん、婆ちゃん、走りまわる子供。「えーい持ってけ、大まけだ」と商売に精出す親父、兄さん、おっ母さんを見ながら一杯やるのはなんともよい気分だ。忙しい時は私も、と前掛けのお婆ちゃんもかいがいしく手伝っているのは宝物のような眺めだ。
(P92)

きっとずっと希求し続けるんだろう(そしてそう簡単には出会えないんだろう)描写。


ちびりちびりと読み進めていた本書を仙台出張に向かう飛行機および眠れない宿で読了。文化横町の「源氏」、通り掛かりはしたが行けなかった。無念。

超・居酒屋入門 (新潮文庫)

超・居酒屋入門 (新潮文庫)