柴崎友香『青空感傷ツアー』

河出文庫。はじめからおわりまで湯船で読了。「きょうのできごと」以来の柴崎作品読書だったが、本作が文庫化2冊目だったというのは、たまたま。
登場人物は多くない。多くない登場人物のだれかに感情移入する必要もない。してもいいんだけど、しなくても楽しめる。旅する彼女が目にする、聞く、感じることの、豊かな出し入れが心地よい。解説で長嶋有が「映像的センス」といういいかたを(詳しくは語られないけれど)していて、そういうことなのかなあ、と思う。たしか柴崎と長嶋は雑誌「Re:S」創刊号でワープロについて熱く語り合っていたと思うのだが、そのことを思い出して、なんだかほっこりとした。
小説における風景の描写を、わたしはいまだにどう受け止めていいのかわからないまま模索している。読み流したくはない、けれど「絵として立ち上ってくるまで」しっかり読もうとすると時間と労力がかかりすぎて読むのがいやになるし自分の想像力の乏しさに落ち込んでしまう。絵として立ち上らなくとも、言葉の連なりを味わいながら読み進めていければよいのだけれど。
そんな言葉の連なりを、どのように意識しながら構築していっているのだろう。あまりにさらりと自然でいて、難しいことなんかひとつもなくて、その言葉じゃなくてもいいようにしか見えないのに、きっとそれしかない言葉の選択を。
ああ、みずみずしい。それに、大阪弁は強いなあ。

大阪は曇りの夜は明るいけれど、地上に灯りの少ないところでは曇りの夜空は暗いんだと知った。
(P128)

青空感傷ツアー (河出文庫)

青空感傷ツアー (河出文庫)