フレデリック・バック展


木を植えた男。 L'Homme qui Plantait des Arbres と展覧会タイトルに入るのは、代表作だからいいんだけれど、さもフレデリック・バック氏が木を植えているかのように思われかねないが、実際にそういった活動もされている方みたいなので、まあいっか、というところか。4/22sun 札幌芸術の森美術館にて鑑賞。
総展示作品数約2,000点。とにかく多い!受付でその旨を念押しされる(で、音声ガイドを薦められる)のも納得。特に前半、怒濤のスケッチ群がお出迎え。それだけで、けっこうへとへとになる。


自分で絵を描かない私としては、なんでもかんでも、よくもまあスケッチするなということに驚嘆する。地元でスケッチ、興味のある土地に行ってはスケッチ、カナダへ渡る過酷な船旅の間も船内をスケッチ、新婚旅行をスケッチ旅行にしてアウトドアで妻を数時間も待たせながらスケッチ。んもうやたらとスケッチ。のんびり見ているこちらとしてはとても楽しいが、なにもそこまでと思わなくもない。
現代の画家やイラストレーターも、こんなにスケッチをするものなんだろうか?記録用というだけなら、仮に現代であれば、情熱大陸のときの浅野いにおみたいにデジカメでパシャパシャ撮っちゃえば済むんじゃないか?と思ったが、必ずしもそれだけではないのかもしれない。現場で見えるものをいちど自分の中に入れて、解釈しながら現場で絵筆を走らせていくことは(たとえそれが記録を目的としたものであっても)その後の作品制作に影響を与えるものなのかもしれないな、と自分で絵を描かない私は想像してみる。
とはいえ、それ自体が作品としての発表を予定されていないスケッチ群は、モノクロありカラーあり、端っこにメモのような走り描きあり、文字で説明を補っていたりと、素人目にも親しみとミーハー気分をくすぐられて、おもしろい。


で、もうひとつ驚嘆するのは、なんでもかんでも、よくもまあとっといているなということ。それらスケッチが展示作品の大部分を占めていることは、おそらく彼がファインアート作家ではないことも関係していると思われる。けれど、それにしたって、完成品以外の大量のスケッチを、キャリアの初期から「将来、俺の回顧展が企画された暁には…ぐふふ」と想定していたわけもあるまいし、よくぞ保管しておいてくれたものである。
スケッチだけではない。学生時代に提出した課題(先生のお手本が脇に描かれていたりもする)や、なんせ2歳のときに描いた絵まで展示されている!それはお母様が大切に保管していたとキャプションがあるので、ものもちのよい血筋なのかもしれない。バック家の捨てられない系遺伝子。


展示は、フレデリック・バックの人生をなぞるようにほぼ時系列で進んでいく。アニメーションの世界で一躍名を馳せてからの展示は作品別にガッチリ見せてくれてそれはそれで見事。しかしながら、そこに至るまでの、イラストレーターとしてのフレデリック・バックの人生の模索っぷりが、とてもいい。書籍の出版企画を何度もつくっていたり、飲食店のメニューの表紙をつくっていたり、勤め先で絵本つくっていたり、いろいろ。そして、その都度に作風が違う。ケースバイケースで、おそらく予算やスケジュールなども含めて最も適切な技法を選択しているのだと思う。
その傾向はアニメ作品においても同様で、そのときどきの工夫たるや!長い長い展示の終盤、ようやっとよく知っている(広告宣伝にも使われている)「木を植えた男」のあの感じに辿り着いたとき、逆に「あ、そうだったよな、これを想像して今日は来たんだった」と、不思議な気持ちになった。しかしまあ、木を植えた男だけじゃないけど、あのやわらかな中に芯が通っててのびやかな感じ、いいよなあー。


絵を描くことでメシを食ってきた男の凄味。絵描きじゃなくても刺激をもらえるいい展示だった。5/27sunまで。


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