無所属の思い出

新年度である。昨年度最終日に実施した取材の原稿を作りはじめている。新年度だからどうということもなく仕事は連綿と続いている。
社会人生活の中で一度だけ、スッパリと年度でぶった切られたことがあって、それは新卒で就職した東京都目黒区の会社をジャスト365日で退職した23歳のときである。有休消化なんぞあるはずもなく3月末日の夜にフロアの皆様に大声でご挨拶を発し、退社、帰宅。翌4月1日の朝、新年度を迎えた全体会議中の会社の総務をこっそりと訪れ社員証・会社携帯その他を返却、11時前にして完全にどこにも属さないフリーダムの身と成り果て、目黒通りのアップダウンをママチャリで走り、碑文谷のダイエーの前のベンチに腰掛け、マウントレーニアのチルドコーヒーを飲んだあの日のあの瞬間のことが、今でも忘れられない。
とても天気がよく、うららかな日和だった。目黒の桜は既に咲き過ぎていたように思う。全力で泣きじゃくりながら幼稚園に放り込まれた4歳のときから初めて経験する、どこにも所属のない、コンプリートリーフリーな身の上の、奇妙な軽さと、不安と、清々しさと。目の前を忙しく通り過ぎて行く買物マダムの皆様方。ぽかぽか陽気。未だに言語化しきれないままに、詳細な記憶は年々おぼろげになりながらも、きっとこの先ずっとことあるごとに春を迎えるたびに、立ち返る思い出なのである。
その後、幸運が重なって、無所属は20日間で終わりを告げた。この先、再び無所属になるときが来るのかどうか、まだわからない。けれど、そのときは、あのときと同じ心持ちにはきっとならない。そのくらい、私の人生観に影響を与え続けている、ささやかだけど大切な風景である。
2012年4月2日、札幌は青空の下を雪がちらついて風花。目黒川の桜はどんなもんでしょうか。