長嶋有『猛スピードで母は』

文春文庫。なんせいいタイトルだなーと芥川賞受賞報道を見て気になったまま、ずーっと読まずにきたのは「母の話」への薄い抵抗があったからかもしれない。映画にもなった「サイドカーに犬」との2本立て。どちらも淡々と静かに進む、心安らかに読める小説。短いし気楽。
褒めてるんだかけなしてるんだかよくわからない、どちらともとれる、結果として褒めてるんだろうけど語り手は無自覚、ぐらいの描写が読んでいてくすぐられる。ストーリーテリング視点が子ども目線(それもやや醒め、絶対に子どもはそんな語彙を持たないであろう虚構の入り交じった子どもの口調)であることが作用しているのかもしれない。

父はその車で毎日のようにどこかへ出かけた。洋子さんと二人で出かけることもあった。なにをしていたのか分からないが、勤めていたころのように疲れた様子で帰ってきたことは一度もなかった。
(「サイドカーに犬」P34)

サイドカーに犬」は映画を先に観たんだけど細かいところはおぼえておらず、とりあえず竹内結子古田新太には常に変換された状態で読んでた。やっぱ洋子さんかっこいい。
その後に「猛スピードで母は」を読んで、やっぱ母ちゃんかっこよかった。ちょっと昔の北海道あるある満載だが、そのへんを冷静に相対化している描き方が心地よし。

長い小説だとどうなるんだろう。

猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

表紙の絵は単行本のほうが好きだなー。