すぐ泣く

すぐ泣く子どもだった。感動の涙ではなく、叱られての涙。声を上げて泣くようなことはなかったけれど、じわーっと涙が浮かんできて半べそになる。自分でも厭で仕方なくて、でも自分では止められなくて、泣いてる自分が情けなくて。
小5か小6の頃、授業中だったかホームルーム中だったか、教室の後ろめの自席にひとり立ち、同じように私は泣いていた。クラスメイト達が振り返って私を見る。馬鹿にされているんじゃないかと情けなさに拍車がかかり、いっそう潤んだ両目は乾かない。
そのとき、担任の杉浦先生が「鈴木は自尊心が強いのだ」と言った。「尊」の漢字も書けなかった私に、クラスメイト達に、鈴木は至らない自分に対して悔しくて泣いているのだ、と説いた。
自尊心って要はプライドで、必ずしもよしとされるものでもないけれど、でも杉浦先生は確かにそのとき私の涙を肯定してくれたし、私は心底うれしかった。泣いた理由も詳細なフレーズも記憶にないけれど、ひとり教室に立っている光景と、自分にとって初出だった「自尊心」というワードは、今も刻みついている。
すぐ泣かなくなったのは、それからいくぶん経ってからだと思う。至らない自分への悔しさを建設的に考えられるようになったのか、それとも自尊心が消え失せてしまったのか。前者だといいけれども、はてさて。