笙野頼子『笙野頼子三冠小説集』

河出文庫。初笙野。本当は『金毘羅』を読んでみたかったのだけれど、たまたま安く手に入ったのがこっちだったので。「タイムスリップ・コンビナート」「二百回忌」「なにもしてない」の3本。
どの話も、決して広くない世界の中で、けれどせまくるしさを感じさせずに、ぐいぐいと“読まさる”感じ。基本的には内省的なモノローグで構成されているが、ぜんぜん倦まないしもたれないし、深そうで深くはまり過ぎず、ぐいぐいと進む。ひょっとすると今言った「内省的なモノローグで構成されている」というのは読後の印象でしかなく、実際には外部的な描写成分を多分に含みながら主人公の記憶語りなどとたくみに結びつけ、読みざわりよく仕立てられているのかもしれない。例えば列車のシーンはなぜか3本すべてに出てくるが、主人公の(ひいては読者の)目に映るものを強制的に転換してゆく。列車に乗ってるのにぜんぜん外に出かけてない感じがするのも不思議。
いちばん好きだったのは「二百回忌」。タイトルからしてぐっとくる。マジックリアリズムっていうの?こういうの。日常と地続きのとちくるった世界。中部〜近畿地方に根ざした(私にとって馴染みのない)土地の香りもあるのかもしれない。
以下、魅力を感じた気づきメモ。

  • 自分語りなのに語るに落ちてない踏みとどまり方(外界描写の混ぜ込み方か?)
  • 読者への情報開示の手順(「タイムスリップ・コンビナート」・「二百回忌」)
  • 登場人物の特異な執着ポイントによるキャラ付け(「なにもしてない」の、生地への執着)