J・D・サリンジャー『九つの物語』

中川敏訳・集英社文庫。昨年、文庫セットにて購入した一冊を今頃読了。初サリンジャー。「バナナフィッシュ」に色めきたつ(アッシュ!)。
読んでいていまいちドライブしていかない。つっかかる。たぶん、いちいち描写が洒落ているからというのと、登場人物がみんなタバコを吸いすぎだからではないだろうか。
終始アンニュイな気分は、書かれた時代の気分だと言われてしまえばそれまでだけれど、それが2011年現在でも読まれ続けているというのは、教養主義以外のどんな理由があるってえのか、俺にはちょっとまだわからない。短編集だからというのもあるが、今まで読んできた短編集より感想や感慨が一元化されないまま、不思議で曖昧な気分が残ったままである。脳の糠床に寝かせておこうか。
いちばん好きだった話は「エズメのために―愛と惨めさをこめて」。いちばんぐっときた部分は「コネチカットのよろめき叔父さん」の以下。時制も視点も未整理なところがいい。

二十分後に二人は居間で一杯目のハイ・ボールを飲み終わろうとしているところで、むかし大学時代に使った、たぶん仲間うちでしか通用しない話し方で喋っている。
(P33)

以下、魅力を感じた気づきメモ。

  • 匂わせといて何も言わない佇まい
  • 唐突な修辞の放り込み
  • 話のかみあわなさ

九つの物語 (集英社文庫)

九つの物語 (集英社文庫)