フェロモン収納

今日の札幌は寒かった。今も部屋が冷え切っていて寒い。寒さにぐちぐち愚痴りながらも「やっと冬将軍のお出ましかあー」なんて、ちょっとわくわくするような気持ちもあったりなかったり。冬はいい。私の大好きなものがたくさんある。言うまでもなくそれは、マフラーやコートの襟の中に入っちゃってる女性の後ろ髪のことである。
おわかりいただけるだろうか。冬、女性がコートの襟を立てマフラーを首に巻く冬。街をゆく彼女らの後ろ髪は風になびくことなく、まとまってひゅっと格納されているのである。私はあれがもうめっぽう好きでたまらない。長い髪なのかもしれない、もしかして肩ぐらいまでしかない髪なのかもしれない。どっちなのだろう。どっちなのだろう。かきたてられる。ストレートもあればウェービーもある。それらがまとまってマフラーの下へ。またはコートの襟の中へ。コラボもある。女性の後姿はいつの時もきれいに見えるけれど、この季節は私にとって五割増である。
たぶん、スキのある感じがぐっとくるのだと思う。そんなつもりはなかったのに、髪が中に入っちゃってるの。わたし気づいてないの。みたいな。それを後ろから見る私。髪、入ってますよ。と教えてあげたくなる。凛としてしゃんしゃん歩く、さぞかしビシッときめてますってな女性ほど、入ってますよと教えてあげたくなる。しっかりとテンションを保っているものもあれば、ちょっと「くしゅっ」とたわんでるものあり、またよい。ぐっとくる。
いや待てよ。これはひょっとして私の誤解なのかもしれない。あれは決して女性にとって不本意な可愛らしいミスなんかではなく、あくまで故意の仕業なのではなかろうか。厳寒の中、少しでも暖かくしていたいという彼女らの知恵が、おのずと髪をコートの襟の中やマフラーの下へと潜り込ませているのかもしれないのである。確かに耳も襟元も暖かそうである。ああ、わざとだったのか。スキのある素振をきめこんでおいて全部計算だったってわけか。私はまんまと騙されていた自分を恥じ、悔い、「でも、それも嫌いじゃないかも」と途方に暮れた。
しかし本日、私は発見したのである。それは「後ろ髪の半分がコートの襟の中へ、もう半分が襟の外へ」という状態であった。通勤の途上、私はとびあがる思いであった。これは、これはまぎれもなくわざとではない。入ってしまっているのか、出てしまっているのかは定かではないものの、これは絶対に本人の意図とは異なる結果なはずである。確かにあまた存在する「後ろ髪入っちゃってますよ状態」の中には、わざとの場合もある可能性は否定できない。しかしながら眼前のこの光景は、「わたし気づいてないの。」が存在することを証明している…!
勇気をもらった私は、この後ろ髪の状態のことを「フェロモン収納」と名付けてみることにした(ホルモンタンクに着想を得た)。コートの襟やマフラーに隠れたあの部分には、あの毛先には、想像を絶するほどのフェロモンが収納されているのである。それらがコートやマフラーの繊維のすきまを通り抜け漂ってきて、背後の私はやられる。やられっぱなしの冬。冬はまだ長い。北海道に生まれて本当によかった。